寺報制作について
善立寺では2013年から寺報「香蓮」を盆・正月の年2回、発行しています。「お寺のIT化」のキーワードでお話をいただくことが多いですが、善立寺の旗艦となっているのは何よりこの寺報です。
今回はお寺様向けに、寺報制作の方法や手段、配布方法などをまとめました。↓こんな寺報作ってます。
想定する読み手
このような広報活動をするとき、企業ではペルソナを設定します。ペルソナとは年齢や性別など含めた想定人物像のことで、その人物像(ペルソナ)に向けてマーケティングを行うのが、ペルソナマーケティングです。端的に言うと「どんな人が読むのか」を想定することです。
この想定で大事なのは「私が読んでほしい人」ではなく、寺報を実際に手に取る人であることです。後述しますが、頒布方法によって、寺報を手に取れる人に偏りが生じます。もし読んでほしい想定人物像があるなら、その人が読める=手元に届く手段を設定する必要があります。例えば「この寺報は若い人に読んでほしい!」と想定するなら、若い人の手に届くような配布手段を設定する必要があります。
私も発行当初、ここを勘違いしていて、実際に手にとってくれている人のことを考えず、頭の中のにいる、空想上の私が読んでほしい人に向けて書いてました。
手に取ってくれる人は誰かを想定する
読んでほしい人がいるなら、その人の手元に届く手段も用意
寺報の場合、想定する年齢層によって、ルビが必要な漢字、フォントの種類・サイズ、色使いも変わってきます。例えば、高齢の方であれば、ユニバーサルデザインフォントでサイズを14pt以上、色も彩度を低めなど。
また、どれだけお寺に関わりがある人を想定するかにより、仏教用語をどこまで分解して説明する必要があるかも変わってきます。例えば「法然上人とは誰か」の説明は必要か。上人(しょうにん)にルビふりは必要かなど。
寺報は既にお寺と縁のあるお檀家様にお送りすることが多い思うので、現実にいる「あの檀家さんとあの檀家さんの顔を浮かべながら作る」のも素敵だと思います。繰り返しますが、その想定する読み手に寺報が届く環境を作ることが重要です。
内容
発行頻度により内容も変わってきます。毎月発行であれば、ニュース性のある話題や、催しのお知らせなど、ホットな内容を書けると思います。一方、年に数回発行の場合、ニュース性のある話題よりも「冷めても美味しいお弁当」のような内容が良いかと思います。うちは年2回発行なので正月発行号を7月まで使います。なので、「明けましておめでとうございます」などが時節に合わないことが多々。挨拶は簡略にしてコラムを中心に書いています。
1度で周知されることはない
「1度書いたら同じことは書かない」と決める必要はなく、何度同じことを書いても良いと思います。「今年の年忌法要当年表」は毎回載せています。また、WEBサイトやLINEアカウントの認知度がまだまだ低いので、最近は毎回同じ内容を掲載しています。永代供養墓の広告も、読み手の状況によって不要か必要か変わる情報なので、毎号載せています。
読み手の状況によって必要な情報も変わる
制作ソフト
1.Word/一太郎
多くの方がお使いのソフトウェアで、初期コストを抑えて制作できるのがメリットです。しかし、写真のレイアウトや切り抜き、自由な文字・写真配置が機能上難しく、こだわろうとすると途端に使えなくなります。ひとまずこれで始めるのも大いにありです。
メリット:初期コストが低い。使っているソフトで作れる
デメリット:文字・写真のレイアウトは苦手
2.パーソナル編集長
おすすめはソースネクストの会報編集ソフト「パーソナル編集長」です。町内会新聞でよく用いられているソフトで、Wordや一太郎を使っている方であれば、悩まずに使えると思います。ソースネクストは年賀状ソフトで有名な「筆まめ」を制作している企業でもあり、初心者でも使いやすいよう、UIがよく練られています。
写真の配置・切り抜き、文章の縦書きも簡単にでき、「お!新聞だ!」と目を引く寺報が作れます。善立寺でも初期はパーソナル編集長を使ってました(リンク)
メリット:写真切抜き、レイアウトが得意。買切り型ソフト
デメリット:初期コスト。Windowsのみ。
3.Adobe InDesign
パーソナル編集長でも物足りない!という方には、プロ向けソフトAdobe InDesignがおすすめです。こちらはアメリカのAdobe社の総合デザイン・サービス「Adobe Creative Cloud」の一部で、利用には基本的に月額OR年額のサブスクリプションが必要です。寺報以外にも、写真・動画制作、イラスト等に使えるソフトも入っています。強力なPDF作成ソフトも付属しているので、印刷会社への入稿時も楽です。
寺報以外にも動画制作・写真編集をお考えであれば一考の価値あり。善立寺はInDesign、Photoshop、Illustratorを併用して制作してます(リンク)
メリット:レイアウトが自由自在。寺報以外にも利用可能
デメリット:月額コスト。習得には勉強必須
印刷方法
印刷は用紙や厚さで印象や費用が変わります。地元の印刷業者さんに頼めば、内容に合う紙種を提案してくれるので、予算があるなら、地元業者がおすすめです。ここでは、低予算で発注できるネット印刷会社を紹介します。
ネット印刷会社
ネット印刷会社は完全パッケージ(通称:完パケ)出稿に限定して印刷してくれる会社です。つまり誤字脱字やレイアウト、色設定にミスがあっても業者は確認・保証してくれません。こちらが全て確認した上でデータを送る必要があります。
ネットで印刷を頼むときは、制作Q&Aなど、サポートが手厚い会社を選ぶのをおすすめします。紙種サンプルを送ってくれる会社もあるので、一度取り寄せて手元で紙質を確認することをおすすめします。
1.プリントパック
ネット印刷といえばまずここ。というくらい有名な会社です。価格や納期など、相場の目安に。
2.グラフィック
注文フローの分かりやすさならここ。紙種選択やオプション設定など、注文フローが分かりやすく、入稿時に印刷イメージがプレビュー表示できたりと、初めてのネット印刷でもスムーズに注文できると思います。その分コストは高めです。色上質紙や特殊な紙種も取り揃えています。ノベルティ印刷も豊富。
3.東京カラー印刷
格安の会社です。その分、納入方法に指定があったりするので注意が必要です。安くて心配になりますが、品質や納品に問題を感じたことはありません。
頒布方法・発行頻度
印刷したものをどのように頒布するのかも重要です。現実には下記の方法の組み合わせで行っています。
1.郵送
最も広く確実に手元に届く方法です。郵送費がかかるため、郵送を主とする場合は、紙種を薄く(軽く)することおすすめします。もしくは、寺報をA4三つ折りなど、定型郵便長3封筒サイズにしてしまうのも有用です。また、郵送しても全員が読んでくれているわけではない事を肝に銘じておく必要があります。
メリット:確実に各家に配達される
デメリット:郵送費コスト。読んでくているかフォローできない
2.手渡し
お寺の催しや法事、お参りの際にお渡しすること。上記の郵送では届かない、親類の方や子供たちにもお渡しできます。法話の枕にすることで会話の潤滑剤にもなってくれます。読んだ感想や質問など、双方向のコミュニケーションができます。
メリット:会話のきっかけに。双方向のコミュニケーションに。
デメリット:会った方だけにしか渡せない
3.設置
会館や控室など、お参りくださった方の目に入りやすいところに設置しておきます。雑誌スタンドは表紙が見やすく便利です。スタンドに立てることを前提にするなら、紙面上半分で何号か判断できるように表紙をデザインすると良いです。平置きは目に入りづらいので、併用がおすすめです。
メリット:低コスト
デメリット:場所の選定が重要
4.WEB公開
WEBサイトへの貼り付けや、クラウドストレージサービスを使えば、PDFをダウンロードしてもらえます。TwitterやFacebookなどで告知すれば、全国の方に見てもらえます。お檀家様のWEB利用度を考えると、WEB公開=全員に伝えられた。と考えずに、あくまで檀家さん以外の方に公開しているつもりで。寺報を制作会社に外注した場合はオプションでPDFデータを購入できます。
メリット:拡散性が高い。印刷無しなら低コスト
デメリット:制作会社によってはオプション費用必
発行頻度
上記、頒布方法から発行頻度を考えます。当山は月参りの習慣はなく、盆・正月に檀信徒様全員に書類を送る機会が元々あったため、年2回の発行にしています。また、「A4カラー8ページ」なので制作期間もそれなりに必要で、作業量から考えて年2回が限度でもあります。A4/1枚から始めて、頒布機会や作業量を見ながら、発行頻度を調整していくことをおすすめします。
カイゼン
1.作りっぱなしにしない
寺報第1号は発行翌日、寺内のゴミ箱に捨てられていました。ショックでしたが、発行するだけではダメなんだと気づき、それからデザイン・レイアウトを勉強し始めました。お檀家様とコミュニケーションを取って、毎号カイゼンするのも寺報制作の楽しさです。
2.情報は出すところに集まる
初期はお寺が「伝えたいこと」が主となりますが、続けていくとお檀家さんから「○○について知りたい」といったリアクションをいただくようになります。頂いた質問をメモしてその回答を載せたり、新聞やネットには載っていない、地域独自の慣習についての解説は特に喜んでくださります。
3.いろんな声を聞こう
発行していると「あんたの話は難しい」「よく分からん」という声をいただくこともあります。難しいのは、内容そのものなのか、書く技術の問題か、文字と写真の割合か、フォントが小さすぎるのかもしれません。なので、そう言ってくださる方はそもそも一度読んでくださっています。それはとてもありがたいことなので、詳しくお話を伺ってみると、新たな気づきがあるかもしれません。
「読んでないです」の声も大切です。詳しく伺ってみましょう。もしかしたら、そもそも手元に届いてないかもしれません。実際、おばあちゃんが仏壇の引き出しにすぐ入れてしまうので、家族の目に届いてない。などもありました。
4.雑誌デザインを参考に
本屋さんやコンビニで目を引くデザインの雑誌を見つけたら、なぜ目を引くのかを考察してみたり。世代により好まれる色調やフォントが異なるので、シニア向け雑誌ではどんなデザインやフォントが使われているのかを調べてみると、読みやすいものになっていきます。
参考書
デザイン、レイアウト、ライティングについて、たくさん参考書が出てます。寺報以外にもイベントのチラシや文書作成の際にも役に立つ内容ばかりなので、一冊手元にあると便利です。私も元々、デザイン・レイアウトも文章も苦手で今も勉強していますが、こういった本に助けられながら作っています。
1.オウンドメディアのつくりかた
寺報を計画するときに読む本
EngadgetやSmartnewsにいらした鷹木創さんの著書。内容はウェブメディアについてですが、紙媒体の寺報に通じるものばかりで、何を書けばいいか。どう継続していけばいいかを考えさせてくれます。寺報を作る前に読むのをおすすめします。鷹木さんの語り口も優しく、いまでもモチベーションが下がったときに奮い立たせてくれる本です。
2.ノンデザイナーズ・デザインブック
デザインはセンスでなく技術
デザイナーではない人のためのデザイン参考書です。基本原則を分かりやすく解説してくれるので、最初の1冊におすすめです。デザインはセンスではなく技術。
レイアウトもセンスでなく技術
こちらはレイアウト(配置)を主した本。上のノンデザイナーズ・デザインブックと共に寺報以外にも書類やチラシなどの制作で役に立つことが多い本です。 レイアウトもセンスではなく技術。
3.新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング
文章もセンスでなく技術
読みやすい文章の書き方を解説してくれる本です。「完食」ならぬ「完読」してもらうためには。など、読み手目線の書き方を提案してくれます。 文章力もセンスではなく技術。
4.技術者のためのテクニカルライティング
技術です
私の根幹は大学時代に学んだテクニカルライティングです。技術文書の書き方ですが、論理的な文章構成や「相手に間違って伝わらない文章」の書き方を学べる本。技術です。
紙の延長線でWEBに
現在のWEBサイトでは内容(コンテンツ)が重要になっています。お寺の歴史やコラムなど、寺報の記事をWEB版にリライトしていくだけで、WEBコンテンツを作ることができます。将来的にお寺のWEBサイト制作をお考えの方にとっても、寺報はとても有用だと思います。
また、WEBサイトやSNSは始めたことの周知が非常に難しいです。そういった新しい施策の周知にも寺報は大きな役割を果たしてくれます。
最後に
コロナ禍以降、お檀家さんと実際に会ってお話できる機会が少なくなってしまいました。そんな折、寺報の顔写真をご覧になって、「久々に和尚さんの顔見れて安心した」というお声をたくさんいただきました。内容がすごくためになる、とか、文章が上手い、デザインが素晴らしいことより、顔写真一枚の方が手に取ってくださる方の心に響く。そんなこともあるみたいです。
はじめから100%最高のものを作るぜ!のではなく、30%の出来でもいいので、作って出してみて、お檀家さんと一緒に良いものに育てていったらいいんじゃないかな。と思います。楽しんで作っていきましょう!