メルカリには寺生まれの社労士さんがいる

こうじりゅうじ

こんにちは。善立寺副住職の小路竜嗣(こうじりゅうじ)です。
お坊さんが聞いてみるインタビュー「echo」
今回はフリマアプリでおなじみのメルカリさんに伺いました。

オフィスは六本木ヒルズ

メルカリにお勤めの横井良典(よこいよしのり)さんは滋賀県にある臨済宗永源寺派延寿禅寺(えんじゅぜんじ)の生まれ。
現在は社会保険労務士(以下、社労士)としてメルカリで労務を担当されています。

社会保険労務士とは?

社労士は、社会保険労務士法に基づいた国家資格者です。 企業の成長には、お金、モノ、人材が必要とされておりますが、社労士はその中でも人材に関する専門家であり、「労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資すること」を目的として、業務を行っております。(引用元:全国社会保険労務士連合会HP

新進気鋭のベンチャー企業に勤める横井さんの歩んだ道は決して平坦ではありませんでした。

お寺から飛び出した横井さんが長い旅路の末、みつけたものを伺いました。今回は前編です。

後編はこちら↓

大勢の人に育ててもらった幼少期

横井良典(以下、横井)

私は滋賀県彦根市にある臨済宗永源寺派延寿禅寺の長男として生まれました。

延寿禅寺Facebookページ

山奥にある小さなお寺だったので、祖父が住職として寺を護持して、両親は小学校の先生として働いていました。
小さい頃は学校で忙しい両親に代わり、祖母や近所の檀家さんに面倒を見てもらっていましたね。

先日、その頃お世話になったお婆さまが亡くなられまして。
お見舞いに伺ったところ、おうちの方々から「私があなたのオムツかえてあげたのよ〜」という話をたくさん聞きましたね。
そんな風に両親だけなく、大勢の方に育ててもらいました。

檀家さんからの期待とプレッシャー

横井

そんな風に檀家さんとの関わり合いが強いからこそ、物心ついた頃から私が寺を継がなければいけない」というプレッシャーを感じていました。
また、私自身「お寺の子」として、言動に間違ってあってはいけないというような意識もあって、それも重圧を感じてましたね。

なので、物心つくころから、とにかく「お寺」というのが嫌でした。

田舎の小さなコミュニティなので、小学校の友達には檀家さんの子どももいました。
でも、自分からお寺の子であることをオープンしたり、話題に出したりはしませんでしたね。

お坊さんにはなりたくない

横井

将来の夢はサラリーマンで、お坊さんには絶対なりたくない!と考えていました。

高校に進学した時には、檀家さんからお祝いをいただいて、嬉しいと思う反面、
「なぜ私が進学しただけでお祝いをくれるのか」と、誰かに将来を決められている気がしたこともあります。

檀家さんは私が僧侶になるための学費積み立てまでしてくれていたようで、そんな皆さんの期待が思春期の私にとって辛かったです。

多くのお寺の子がそうであるように、大学進学の際、進路で親に反発しました。
私はビジネスを学びたくて、経営学部に進学したかったんです。
でも両親からは花園大学(臨済宗の僧侶資格が取れる大学)に進学してほしいと言われてて…
当時は両親に反発して困らせましたね。

進みたい道

こうじ

みんなの期待にも応えたいという気持ちがあるからこそ、悩むんですよね。

横井

両親も自身の判断を尊重してくれて、経営学を学ぶため京都産業大学に入学しました。

お寺と経営

自分で選んだとはいえ、お寺とは全く異なる道を進み出した私ですが、「将来、お寺はどうするのか」ということが常に心の何処かにありました。

そんな中、ゼミの中でパナソニック創業者の松下幸之助さんの経営哲学として、先生がこんなことを話してくれました。

「経営」はもともと仏教用語であり、経とはお経=普遍の真理、営とは営むこと。
だから、経営学を学ぶということは、決してお金儲けの方法を学ぶのではなく、「社会に価値を生み出し続けること」を学ぶことであることなんだ。
お寺と経営学は決して異なるものではない。

という話を聞いて、私が学びたかった経営学とお寺が少しつながったように感じました。

こうじ

逃げたくて仕方なかったお寺と自分がやりたいと思っていることが、実は同じベクトルのものであったと。

横井
そうですね。また、ゼミでは、障害者雇用についても学びました。
今、メルカリで障害者雇用に携わっているので、ここにも因果があったのかなと感じています。

新卒入社「人に関わる仕事を」

横井

就職活動の際も「お寺を継ぐかどうか」がずっと頭の隅にありつつも、決断からは逃げていました。

両親の気持ちを考えると、いつかはお寺を継いでほしいからと、転勤のない農協や自治体への就職を望んでいたと思います。

でも私は、現在のお寺の役割に違和感を感じていて、お寺の本来の役割は悩んでいる人を救うことなのでは無いか?
今の世の中で悩んでいる人はどこにいるのかを考えた時、それは会社の中にいるだろうと考えました。

悩んでいる人に寄り添いたい

横井

それなら、私自身がその場に行き、自身も悩み、苦しみかもしれないが、そういう経験がしてみたい。悩んでいる人に寄り添うことを仕事にしたい。
と、人と関わる仕事がしたいと強く意識し、人材派遣会社に就職をしました。

その会社では飛び込み営業や、派遣スタッフの部屋を借りたり、掃除したりと、スタッフが働き、生きていくためのサポートをしていました。

人と関わる仕事がしたいと思って入社しましたが、この頃は仕事とはいえ、精神的につらい時期でもありましたね。

1度目の転職「僧侶が経営する社労士事務所」

横井

仕事柄、労働法に接する機会も多かったので、社労士という仕事に興味を持ち、社労士事務所に勤務しようと考えました。
でも、社労士事務所って、なかなか求人が見つからないんですよ。

そんなとき、たまたま募集を見つけたのが愛知県にある社労士事務所でした。
後になって知ったのですが、この社労士事務所の社長さんは社労士であり浄土宗のお坊さんでもある人なんです。

こうじ

まさに今おっしゃていたお寺と経営!ほんとにそんな方が現実にいらっしゃるなんて思いませんでした。

横井

そうなんです。私もびっくりしました。
そんな縁もあって、未経験で右も左もわからない私を採用してくれたのかなと思います。縁をすごく感じるとともに、本当にありがたかったですね。

この事務所では中小企業の社会保険や労働保険手続きなどを担当し、「経営者目線で物事を捉える」ということを学んだ時期でもあります。

「お寺と自分」を今も模索

横井

社労士事務所で働きながらも、やはり「お寺と自分」というのを常々考えていました。

実は私には10歳離れた弟がいまして。
お寺から飛び出した私と違い、弟は花園大学にも進学し、僧侶としての活動も精力的に行なっています。

そんな弟のために、兄として何かできることはないのか。
弟が本当に後悔せず、お寺を継ぎ、継続的に運営できるよう私なりにサポートしたい。
と考え、模索し続けています。

【つづく】

次回は愛知から上京され、2度目の転職。
メルカリへの入社。
自身のアイデンティティについて伺います。

↓後編

 

副住職

お話を伺うまで、これほど様々な経験の末、社労士になられたとは知りませんでした。次回は2,3度目の転職とメルカリでのお仕事について伺います!

本記事は広告記事ではなく、筆者の個人的なインタビューです。この記事に関して、株式会社メルカリからの利益供与は一切ございません。

この記事を書いた人

副住職こうじりゅうじ

浄土宗善立寺副住職
大正大学地域構想研究所客員研究員
元エンジニアで寺院のデジタル化を推進する
寺院ITアドバイザーとしても活動している
ScanSnapアンバサダー/認定DXアドバイザースペシャリスト