浄土宗の葬儀の特徴

葬儀の風習には地域性がある

葬儀は「川を超えると変わる」と言われるほど、地域ごとに風習が全く異なります。またお寺ごとに異なることも多々あります。ここでは長野県塩尻市の当山、浄土宗善立寺が行う葬儀についてお伝えします。どの地域で伝わっている風習もその地域の生活に則した尊いものですので地域の風習を大切にしていただくとありがたいです。

中信地区の特徴

当山がある塩尻市を含め、長野県中部では葬儀の前に火葬を行い、ご遺骨になってから葬儀を行う「骨葬」が一般的です。

みんなで念仏を唱える

地域差があっても、浄土宗の葬儀で必ず行われるのが「念仏」です。僧侶だけでなく、僧侶と会葬者みんなで「南無阿弥陀仏」と何度も唱えます。数十回唱える「念仏一会」や十回唱える「同称十念」などがあります。
【お坊さんが解説】浄土宗の十念の唱え方

浄土宗の葬儀の意味

浄土宗の葬儀はお釈迦様のお父さんである浄飯王(シュッドーダナ王)の葬儀が描かれた「浄飯王般涅槃経」や浄土三部経など仏教経典に基づき行われます。葬儀は一つのお経を読んでいるのではなく、「偈文」と呼ばれる短いお経の組み合わせで構成されています。どの偈文をどう構成していくかで地域性が生まれます。

葬儀の流れ

1.阿弥陀仏の来迎を願う

葬儀を始めるにあたり、私たちの身と心を清めます。そして道場に華を撒き、故人を送るために、阿弥陀仏はじめ諸菩薩の来迎を願い、仏の御前で罪を懺悔します。

勧請/かんじょう

仏の降臨を願うことを勧請といい、シンバルのようなハチや太鼓を高らかに鳴らします。これはお釈迦様のお父さん「浄飯王」の葬儀の際、雷鳴がとどろいたことが由来です。

弥陀三尊の来迎

2.引導

阿弥陀仏を讃嘆する「陀羅尼」という梵語を唱えた後、導師がたいまつを持ち、引導作法を行います。引導とは引いて導く「道案内」を意味し、故人に法然上人が開いた浄土宗の教え、阿弥陀仏の救済を説き、この世を離れ、極楽浄土に向かうべきであることを伝えます。葬儀において最も重要であり、浄土宗教師のみがこの引導作法を行うことができます。

浄土宗教師

浄土宗において住職になれる僧侶を「浄土宗教師」と呼び、知恩院もしくは増上寺にて「伝宗伝戒道場」を修了した僧侶のみをいいます。修了していない僧侶は戒名授与や引導を行うことができません。

3.告別式

故人との別れを告げる儀式、「告別式」を行います。ここで友人やご親族からの弔辞・お別れの言葉、弔電の拝読を行います。

4.読経・焼香

ここで長いお経を読みます。読経中、ご親族・会葬者のみなさまにご焼香していただきます。焼香には私たちが日頃ためた功徳を故人に振り向ける「回向」の意味があります。心を込めて行いましょう。

【お坊さんが解説】浄土宗のお焼香の仕方

お経

このときのお経は様々ですが、松本地域では観無量寿経の「第九真身観文」が読まれることが多いです。このお経は阿弥陀仏が極楽でどのようなお姿をされているのかが書かれたお経です。

5.阿弥陀仏とともに故人を極楽浄土へ送る

阿弥陀仏が来迎し、導師から引導を渡され、告別式で友人知人と別れを偲び、お焼香で皆さんから功徳も分けてもらいました。いよいよ極楽浄土への旅立ちです。来迎のときと同じく、ハチや太鼓を高らかに鳴らし、阿弥陀仏と共に故人を極楽浄土へお送りし、極楽浄土から私たちを見守ってくれることを祈ります。

極楽浄土へは一人で向かうのではなく、阿弥陀仏はじめたくさんの諸菩薩とともに旅立たれます。

6.初七日法要

松本地方では葬儀に続けて初七日法要を行います。今一度、阿弥陀仏と諸菩薩の降臨を願い、霊膳を供え、お念仏を唱えてご供養を行います。

葬儀とは別の法要であるため、もう一度ご焼香していただきます。法要では法然上人の御遺訓「一枚起請文」を読むことが多いです。

本来、初七日法要は没後7日目に行われる法要ですが近代では葬儀が没後7日前後に行われるため、葬儀にそえて行われることが多いです。

7.法話

導師が会葬者に向け、法話を行います。最後にともに十遍のお念仏をお唱えして式を閉じます。

「簡単」が一番難しい

葬儀式は弔辞・弔電、初七日法要、法話を含めおおよそ1時間ほどかかります。近年、都市部での葬儀に伺うと葬儀社様から「葬儀は30分でお願いします」とのお話があったり、「手短に」、「簡単に済ましたい」とのお声をいただくことがあります。私たちも出来得る限りご意向に添えるよう工夫は行いますが、葬儀式の中身は儀式上外せないものばかりですので、その点ご理解をいただき、ともに葬送の時間を過ごしていただければ、宗教者としてとてもありがたいです。

この記事を書いた人

副住職こうじりゅうじ

浄土宗善立寺副住職
大正大学地域構想研究所客員研究員
元エンジニアで寺院のデジタル化を推進する
寺院ITアドバイザーとしても活動している
ScanSnapアンバサダー/認定DXアドバイザースペシャリスト